Vol143 救われた話

救われた話

「コロナ騒ぎ!」この、戦争にも匹敵する恐怖の旋風が今まさに全世界を脅かしています。

今まで私は戦争体験者として、当時直面した辛さや哀しみを語らせて頂く機会が時々あって、ついこの二月にも近くの《屋敷小学校》の課外授業の一端として、「子供の目から見た戦争」というテーマで小学生にお話をしてきたばかりでした。その直後です。コロナ騒ぎが爆発したのは。

今まで戦争体験を語る度ごとに、(私達年寄りは、あれから様々な苦難を乗り越えて生きてきたけれど、こんなにも穏やかないい晩年を過ごせるようになろうとは…)と、感謝を込めて思いを巡らせていたものでした。

それがいきなり《奈落の底》です。

「こうなったら長生きもよしあしだなァ」などと考えてしまうお年寄りも多いのではないでしょうか?

年寄りだけでなく突然日常が覆された働き盛りの人たち、それぞれの家庭を襲った揺さぶり。予想もしていなかった事態だけに、そのストレスも《半端ナイ》のではないかと、それが心配です。今後このストレスがもとで、若い人にさまざまな精神的ダメージを与えることなどないよう、祈るのみです。

私もこの三月・四月は色々な行事で、手帳の予定表はビッシリだった筈なのに、すべてが吹き飛んでしまいました。

普段からじっとしていることが苦手なので、こんな事態になっても、やりたいことを次々と探し出しては動いています。裏庭の畑に鍬を入れて、肥料を撒いたり種まきしたり…。でもやはり何か違う!

スマホでお友達と安否を確認し合ったり、ラインでの他愛ないおしゃべりも何時だって出来ます。にも関わらず、です。

そう、《人と会えない》ってことがこんなにも寂しい事だったとは。

そんな折りも折り、思わぬ救いのお誘いを受けました。長年取り組んでいる「逆さ歌」でのテレビ出演のお声がけを、又頂いたのです。

向こうから撮影に出向いて下さるとか。でもそれがあまりにも急なお話で…、撮影日までに中なか二日しかない、そんな切羽詰まったお話でした。

しかも私のレパートリーには無い新しい曲を仕上げ、それを当日プロの歌い手さんご本人に教えてその場で歌ってもらう、という企画です。

もうかれこれ三十五年にもなる逆さ歌歴ですがまさに史上初の難題でした。でもそこで足踏みする自分ではないことは百も承知のナカダ!取り敢えずニッコリ笑って言ってしまいました。「ハイ、やってみましょう」

歌い手さんは前年度の新人賞に輝いた、イケメン演歌歌手「辰巳ゆうとクン」。曲は彼のデビュー作の「下町純情」なのですが、実は私は今まであまり演歌を手がけるチャンスがなくて、縁遠い感じでいたのです。

でも、やります!と断言した以上は…というワケで早速その歌に取り組みはじめました。

今までYouTube には五十曲近く揚げていますが、準備期間は平均して二十日くらい、長いものでは半年越え、というものも…。

それをたった二日の奮闘でした。

どうにか伴奏もつけ、なんとかサマになった《下町純情》。逆回しで聴いてみましたが、やはり演歌特有のコブシが命のようです。それだけに難しく、これをどうやって演歌歌手に教え込むか、アタマを抱えていました。

さて、本番当日!

我が家にやってきたのはスマホの映像よりも遥かにオーラに満ちた好青年。そう、あの氷川きよしがデビューしたての頃を彷彿とさせるような礼儀正しい、爽やかな若者でした。

しかしもっと私を驚かせたのは、いくらプロの歌い手さんといっても、逆さ歌をすぐさま呑み込めよう筈はなく、逆再生しても、かろうじて《元歌》と聞き取れる…。今まではずっとそんな感じだったのに、なんと、二~三回歌ってみせたら少しの音程のハズレもなく、完璧にマスター!

逆回転してみたら、ちゃんとコブシまでついているではありませんか。思わず「うわァー ゆうと君、天才!」と叫んでしまいました。

残念ながらこの号が出版される頃にはこの番組、放映されたあとですが、私にとって今回の《逆さ演歌》のドタバタ騒ぎは、あのコロナの恐怖をほんの一瞬だけでも忘れさせてもらえた、素晴らしいハプニングだったのでした。