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「害」常用漢字で無害に

2024年10月10日

漢字を楽しむ

常用漢字になって害が無害の字になった、と嘆いている学者がいる。漢字の成り立ちを立証し、字形と意味との関係を説いている辞書『常用字解』の著者、白川静博士である。

害という字はもともとの字とは少し違う。ウ冠の次は一ではなくノであり、縦の線は口までつながっていた、把手のついた大きな針と口とを組み合わせた形。口もただの口ではなくて、神への祈りの文である祝詞を入れる器の形とする。大きな針で器を突き破り、その祈りの効果を傷つけ失わせ、祈りが実現するのを邪魔するのが害であったとする。だから害には、傷つける、邪魔する、損なう、の意味があるというのが白川説で、針の先が器に届かなかったら傷つけることも、害することもできなくなり、常用漢字は無害の字になったというわけ。

常用漢字は、もとの漢字の意味を余り考えもせずに、形だけ整えようとしたため、こうした問題を数多く生み出してしまった。

損なう・傷つけるの意味では、害虫・害悪などがある。害虫・害鳥といった場合、人間の生活に害を与える、人体や家畜に害を及ぼす、農作物や衣類を食害する、という面から捉えたもので、言ってみれば人間さまの勝手な判断である。身の回りにはどちらを向いても害虫だらけ。人を刺すもの、有毒なもの、農業害虫や環境衛生害虫、それぞれすぐに例を挙げられる。それだけ害虫が人間の生活環境に侵入し、多量に適応しているということか。人間の広範囲の交流がこれらを世界中に広げる大きな要素にもなっている。

わざわい・災難の意味では、干害・寒害、鉱害・公害など同音異義語を含めて、掃いて捨てるほどある。災害列島に住む者の宿命なのか。地球温暖化との関係はどうなのだろう。

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