「布」ノ一巾の順に書く
この字でまず気になることは筆順である。筆順なんてどうでもいい、でき上がった文字が読めればそれでいいという人もいる。しかし、文字というのは意思伝達の手段であるから、正しく、美しく書かれていたほうがよい。筆順が重んじられてきたのはこうした理由の外に、早く書けるという利点もあった。
布はノ一巾の順に書く。ノを先に書くか後にするかで、形も当然変わってくる。右や成もノから書くのが普通。希望の希も、西郷隆盛や高見盛の盛も、ノから書かないと堂々とした字に見えない。上から押しひしがれたような形になる、要注意。ついでに記すと、筆順の語が作られ、使われるようになったのが大正元年(一九一二)である。
漢和辞典で布を探すと、巾の部の二画にある。フという音の他にホもある。太鼓腹を露出し、大きな袋を背負った布袋は、七福神の一人として親しまれている。
布は織物の総称。というのは新しい定義で、古くは麻・カラムシ・葛などの繊維で織った織物をさし、主に絹に対していうものだった。のちに、南方が原産の木綿が加わって、衣と毛織物以外をいうようになり、今では絹をも含めて織物全体をいうようになった。
高校の日本史の授業で、近くの武蔵国分寺址を見学に行った。広さは全国最大とかで、布目瓦について説明もあった。飛鳥から平安時代は瓦を作る過程で布目がついた、それは麻布だった。国分寺の礎石も興味深く見た。当時の学習参考書には、「国分寺には梨が一つ」上がったと覚えること、とあった。聖武天皇と光明皇后が発願し、建てさせ鎮護国家を祈らせた寺、それが天平十三年(七四一)だ。機械的に覚えるよりも、あの一日が古代史を身近なものに引き寄せてくれた。
あれから何十年後、同窓の集まりで友人が言った。「お前、布目瓦を家に持ち帰って、それからどうした?」