KIRACO(きらこ)

Vol147 千葉で新派を上演して

2021年1月21日

吉成庸子さんのコラムを読めるのはKIRACOだけ

千葉で新派を上演して

十二月十四日の朝、私は何時もより一時間早く、朝六時少し前に目を覚ました。

まだほの暗い朝の庭を眺めて、まずホッとする。雨は降っていないし、そんなに寒く感じられなかったからだ。その日は、千葉おかみさん会が主催して、千葉文化センターで新派の公演をすることになっていた。昼夜二回興行で、料金は五千円均一だ。全席指定なので、二階席の方には、申し訳ないのだけれど、申込み順に良い席からお渡しするとした。

コロナの終わりをみない中、人を集めるのはどうかという思いもあったが、おかみさん会はここ半年余り、全部取り止めで何一つやっていない。せめて何なりかの形で、会員の方々や日頃応援して下さっている皆様に、お会い出来る場をと、理事会で二回にわたり相談した結果、コロナのため、おさえつけられている文化の光りを少しでも、おかみさん会から日本中に向って発信していこうという事になった。と言ってそんなに大きな取組は出来っこない。まず一回目として、千葉県在住の俳優さんや歌手の方を応援しようと決める。だって、劇場は休みだから、舞台に上るチャンスがほとんどないので、俳優さんも歌手の方々も本当にかわいそう。少しでも力になれたらと思う。理事会で皆様の賛成をもらった私はすぐに何をやったらいいか、新派の人気俳優喜多村緑郎さんが、千葉市若葉にご在住と知り、お話を持っていった。気持良く受けて頂き、共演者として、河合雪之丞さんのご出演も頂くことになる。題目は、「新派とは」という、新派のあらゆる説明と、喜多村緑郎さんの一人芝居、国定忠治を上演する運びとなった。そして、目の御不自由な方へのチャリティ公演となった。目の御不自由な方々への支援は私のライフワークの一つとしている。願いが叶って嬉しかった。私の仕事の一つには、お芝居や音楽会、朗読会等のイベント、企画プロデュースというのがある。

書くという作業の他に、もっとも私の好きな仕事の一つかもしれない。ただし、私の場合は、ほとんどが、チャリティ公演なので、余り儲けにつながらず赤字の場合が多い。

でも、チケットを買って下さる皆様方は本当にありがたいと感謝するばかり。今回はおかみさん会での興行なので、損は会にかけられないとはなから覚悟しての上演となった。

それでも、おかみさん会の会員、賛助会員の方々が、がんばって応援してくれたので、チケットは完売した。残念なのは、コロナのせいで、定員半分の人数しか入れられない事だった。演じる俳優さん達だって、淋しいし張り合いがないだろう。私達だって実際困るのだけど、やはり仕方ないとあきらめる。少しでもにぎやかにと、売店をいつもより多く出してもらった。私達おかみさん会も、名物と自分達だけで思っている、おかみさんクッキーと、手作り匂い袋とマスクを売った。

匂い袋は会員の何人かが、協力して作ったもの、マスクは、やはり会員の呉服の老舗、大野屋の渡辺会員が、いろんな柄のマスクを作り、寄付して下さる。思いの外売上げ上々で、すべて完売出来た。他の売店さんも皆、よく売れたと喜んでおられたので、嬉しくなった。支援金も無事お渡しでき、ホッとするものの、やはり二回興行は、この年齢にはきつい。お出迎え、受付け、ご案内と走り回っていると足や腰がミシミシいう感じ。

けれど、二十名も出て下さっているおかみさん会会員のハッピ姿は、はなやかで、活気があった。皆、元気がいいし、笑顔がいい。

朝からそれぞれの持場でがんばってくれた。

私一人じゃ、いくらがんばったって、出来やしない。皆さんに助けられて出来るのだとつくづくありがたかった。日頃お世話になっている八市の市長さんにもお越し頂いた。

習志野市さんからも西村総務部長さんにおいで頂き本当に嬉しかった。二回目の公演に入り、二部が始まってから、やっとゆっくり客席に座る時間がとれた。国定忠治の一人芝居噂には聞いていたのだが、やはり素晴らしかった。久し振りに舞台に引き込まれた感じがした。

「新派とは」も好評だった。私等は若い頃から新派は好きでよく観に行ったものだ。だが今の若い人達には、大分遠い世界になっているのかもしれない。これを観てとても良かったと言って下さった方も多い。帰りがけ、「久し振りにほんまものを観ましたよ」とか「来て良かった」と言われて、胸が熱くなった。

自分の企画したものが好評だった時の気分は最高。この日は良き一日となって終わった。