「椀」直径約十二センチ
その年は丙戌の年だった。私は年賀状に「犬咬合」という愚仏の詩を色刷りで小さく載せた。ここに書き下し文に改めて書くと、「椀椀椀椀また椀椀、またまた椀椀また椀椀、夜暗くして何疋かとんと分からず、終始ただ聞く椀椀椀」となる。
ワンという字には他にも湾・腕・碗などがあるけれど、犬の鳴き声を映す、くぐもり声の感じが一番よく表れている字はやはり椀だ、ワン。
しかし犬は大昔からワンと鳴いたのではないらしい。平安時代後期の歴史物語『大鏡』には、「ひよと吠え給ふ」と書かれている。当時は濁りの音を書かないのが普通であったから、ビヨだったと思われる。ビヨからワンに変わったのはなぜか。犬を取り巻く社会環境の変化、野生の犬から飼育される犬になったのが原因と考えられる。ドスを利かせた遠吠えは不必要になり、生活も安定して、大人しい声のワンワンに変わったようである(山口仲美著『犬は「びよ」と鳴いていた』)。
一寸法師は「お椀の舟に箸の櫂」で都へ向かった。お椀の大きさはどのくらいだったろう。お椀の寸法というのは大体決まっている。先にお盆は尺二ものが使いやすいと書いた。尺二なら両手で持って運んでも尺五、肩幅以上にはならない。
同様に、日本の食器は取っ手なしでも具合よく持てるよう大きさを整えてある。大体お椀の径は四寸(約十二センチ)どまり。それ以上になると片手では持てなくなり、伏せておいてある椀がつかめなくなる。横からつかもうとすると滑ってしまう。径四寸に決めたのは日本人の手であった。こういう体の寸法や動きに合わせて作ることを身度尺で測って作るという。
お椀を買うときは、目で見て、手に持って、指で触ってみる。しっかり馴染むようだったら買ってもいい、と聞いた。御免なさい。