Vol151 ダンディ談義
前回も触れましたが、目出度く百五十号の大台を超えたkiraco。執筆の方々もいわゆる《常連》で、何となく親しみを感じてしまうのはどなたも同じではないでしょうか?
『文は人なり』とか。文章の中味から浮かび上がるそれぞれのお姿を空想するのも楽しいものです。
こんなご時世でなければ、編集長さんにお願いして、『一五〇号突破記念祝賀パーティ?!』でも企画して頂きたいところです。
つい先日、編集長さんにそんな話をしましたら、
「近々『大野一敏さん』の講演会がありますよ。コロナ下なので人数に制限はあるようですが」とのこと。早速申し込みました。
立派なご本も出版されていて、その博識ぶりは存じ上げていましたが、誌上のお写真だけでしか存じ上げない大野さん、やはりナマ?でのご対面ともなれば少しばかり緊張してしまいました。
とにかく驚き!でした。予想を遥かに超えたテンポの速さ、そしてお歳からは想像もつかない滑舌のよさ。
第一お話が面白くて思わず引き込まれてしまいます。例えば『三番瀬がオイルショックのおかげで埋め立てを免れた話』とか、ラムサール条約のこと、長年漁師をなさってきて、そこで体験した様々な出来事。
それを、原稿もメモもなしに、しかもずっと立ったまま、マイク一本握ってお話なさるのです。
大野さんは私よりずっとお若くていらっしゃるのですが、それでも八十代。こんなに聴衆を引きつけるのはやはり根底にユーモアがあって、ご自身自体楽しみながら話していらっしゃる。それがそのまま聴く側にも伝わって来る~、そういう流れに違いありません。
いえ、それよりももっと私が驚いたのは大野さんのダンディなお姿!
「私は長年漁師をやっておりまして」などと、さらりと言っておきながら、そのスタイリッシュな服装にはただ感服!でした。
真っ白なズボン。そして上衣は無地の黒。遠目で良くは分かりませんでしたが、ベルトのバックルは恐らくマリンをイメージした風の深いブルー。それも丸くて大き目なもので、それが全体を引き締めています。
それは若者にはない、人生の我が道を選んで逞しく生き続けてきた、自信に満ちた男の姿そのものに思えて、感動すら覚えるのでした。
そしてその時、嘗て若い頃に遭遇した、同じような眩しい光景が、ありありと蘇ったのです。
三十代後半、私はふと思い立って《シナリオ作家協会主催の作家養成教室》に入り、半年近く渋谷まで通いました。
今思えば何と豪華な講師陣!と驚くのですが、主だった方だけでも
「新藤兼人、山田太一、篠田正浩、熊井啓 直居欣哉・・・、」他にも当時著名だった映画界の面々が。
卒業の締めくくりは二百字詰の原稿用紙二十枚、という、超短編のシナリオ。課題は「花」の一文字、それだけを元にシナリオを書いて提出するのです。
その選考委員でいらした直居欣哉先生、この方は「雲流るる果てに」という、鶴田浩二主演の映画、当時のヒット作を手がけられたシナリオライターですが、嬉しいことに私の書いた「薔薇に寄せて」をとても褒めて下さり、なんと「最優秀作品」に選んで下さったのです。
作品は月刊誌「シナリオ」にも掲載されることになり、その打ち合わせに渋谷の交差点で待ち合わせることになりました。
真夏の昼下がり、私が横断歩道の端で待っていると、向こうから合図の手を振りながら笑顔で駆けてくる直居先生のお姿が・・・。
それが大野さんと同じく真っ白なズボン!シャツも靴も白一色。
当時先生は恐らく六十代半ばでいらしたと思うのですがまさに「ダンディ」という言葉ピッタシのお姿で、それまで私は「おじいさんはキライよ。男の魅力は四十五歳まで!」などと嘯うそぶいていたものですが、一挙に持論が覆された瞬間でした。
大袈裟なようですが《文は人なり》と同じくらいに《服装はヒトの生きざまなり!》なのではないでしょうか。 いつも「きらこ」のトップを飾っておいでの重量感のある大野さんのページ。
大野さん、これからも海のお話、楽しみにさせて頂きますね!