广+木、广は建物の意、音符になる木のもとは牀、爿は寝台の形。床は家の中にある寝台の意を表す。床は牀の俗字であったが、今は常用漢字の仲間入りをしている。
李白の有名な五言絶句「静夜思」に「牀前月光を看る 疑うらくは是地上の霜かと 頭を挙げて山月を望み 頭を低れて故郷を思う」がある。
画家で書家でもある江屹さんと懇談中、あちらでは「月光明らかなり」「明月を望み」ばかりで、日本へ来て異様に感じたと話してくれた。
確かにそういう伝本もあるが、日本でははじめに記したのが広く知られている。
先日山西省の書店で求めた『小学生必背古詩文』には、「床前明月光」となっていた。
床はユカと読むかトコと読むかでだいぶ違ってくる。
ユカは建物の内部で、地面より一段高く構えた根太の上に板などを張りつめた平面。床暖房が宣伝されている。
工場などの底面にコンクリートを打ったものをユカというが、住宅ならば土間という。
京都・鴨川の流れの上に板張りの納涼用座敷ができるが、これもユカである。
ユカの上に住めるのは古代では貴族階級、庶民の間に普及するのは近代になってから。材木に楔を打ち込み、ヤリガンナをかけて作り出すユカ板を張るのは大手間だった。大鋸・台鉋が発明されて、ようやくユカ張りが現れたわけである。
トコとすると、寝るために布団などの寝具を整えたところ、またその布団など。病の床に臥すと使う。
苗を植えて育てるところ、苗床。畳の芯や川の底もトコである。住まいでは床の間。
床の間ができたのは室町中期といわれている。
間口が広く奥行きの狭いものから、今の床の間へと様変わりしてきた。そのころの中国は宋の時代で、宋画の掛け軸を掛け、唐物といわれる工芸品を飾るため違い棚をつけ、鑑賞する施設として定着したものという。