KIRACO(きらこ)

春が待ち遠しいこの頃だ。

おまけにコロナがまた流行り出してしまい、集まりもできず、予定していた新年会等もほとんだが中止だ。確かにこんな時に出歩くのはよくないだろう。そう思うものの、久しく会ってない方に会える機会がなくなったり、いろいろ企画をたてた会が出来なくなるのは悲しい。私自身、毎年上演しているお芝居「友情」ができなくなり「声の花束」という歌と踊りを取り組んだ朗読会も二回中止となった。その上、今年の六月に私の原作「八丁堀ものがたり」が三越劇場で上演予定だったがこれも中止となってしまった。私は自分の原作は絶対に自分で上演も映像化もしないと決めているのだが、自分の年齢も考え「八丁堀ものがたり」だけは自分の会社でやろうと思った。私の最初の本でもありこの本がなかったら、多分私は書き手には絶対になっていなかっただろう。自分好きな役者さん達に出演して頂きたいし、好きな演出家さんにやってもらいたいという希望もある。そんなわけでこれだけは、自分が関わりたいとと思った。私の小さな会社「双美」は歴史が長い。もう三十年も前になるだろうか?

まだ健在だった父が、多分結婚もせず、一人で商売をしていくであろう娘の為に作ってくれた会社なのだ。私の家は代々男の子には「又」と「数字」が入った名前をつける。父は又一郎だった。私の上の弟は又五郎、下の弟は又八郎というように。だから「又」をふたつ書いて「双」、下の「美」は母の名の美江からとって「双美」とつけたそうだ。父が他界した翌年、私は急に結婚した。二十二歳で始めた商売は、七店余りに増えていたが、私は潔く止めて、結婚のため四街道へやってきた。だが、「双美」はどうしてもつぶしてしまう気にはなれず休眠の手続きをしておいた。結婚後はずっと専業主婦をしていたが、五年ほどたった時から、文章をかくようになった。特に勉強したわけでもないし、好きだったわけでもないのに、やがて、エッセイや小説を書き始め本も何冊か出したし、ドラマにもなっている。亭主の吉成儀ちゃんは、そんな私を怒りもせず、すすめもせず、いてくれたが、六年前急に他界してしまった。年令差のある夫婦だったから、仕方ないと思うものの、味気ない日々が続いていく。ほんとうに一人で暮らしているのは、気が楽だけど淋しい。一日中一言も口を利かない日があったりして私は考えた。そして、いろんな人が集まり飲んだりしゃべったりできる店「ラウンジ夢子」を開いた。土日祝日を除いて午後六時から十一時までの営業だ。営業的にはまったく儲からないが、いろんな人が来て下さり、楽しい。私はよほどのことがない限り店に出ている。その店もコロナで九時までしか営業できない。「双美」は、飲食業とイベントの会社だ。これから先どうなってしまうのであろう。何とかなるさと楽天的な私だが、今はいささか不安だ。出銭ばかりで入り銭がない。苦しいのは当たり前だが何事も予定が立てられないのが最もつらい。でも皆同じだからと自分を慰めている私だ。そんな私がかわいそうに思ったのか、下の弟が「僕が少し手伝ってやるよ」と言ってくる。本気にしてなかったが、かなり真剣なのでビックリした。それならばと役員に迎え入れたが無給だ。一生懸命やってくれるので助かるがイベントや飲食業には全く縁のなかった人だけに納得がいかない点が多いらしい。私と時々衝突するが、私は出来るだけ弟の意見に従おうと思っている。やっぱりそれだけ年齢をとったという事だろう。

私はお金持ちでもないくせに、寄付とかするのが好きだ。「少し考えたほうがいいよ」と弟や周りの人からも言われる。私は、「いい事に使うんだからいいじゃない、その分洋服代とかアクセサリー代とか倹約して、と言うより買わないようにするから」と言い訳をするのだが、ダメな私は、「吉成様のために仕入れてきたんですよ」なんて電話でももらったらすぐに買いに行ってしまう。ステキなアクセサリーがあるとつい買ってしまい、すぐに後悔している。おまけに一度買った洋服を忘れて二度買って来てしまい、自分でも飽きれている。もっとたくさんの楽しみを持っていればよかったと今になって思ったりもするが、所詮手芸なんて私には無理だからきっと、何もしていなかっただろう。人が好き、いろんな人とおしゃべりするのが好きな私、早くコロナが去って、気軽に出歩ける日が一日も早く来てくれることを祈っている。きっとこれは世界中の人の願いなのだろう。

昨日、久し振りに堂本暁子さんから電話を頂いた。堂本さんは千葉市内にお住まいだが、信州のほうに温泉付きのマンションをお持ちだ。ときおり、温泉につかりにそちらに行かれるようだ。少しも威張らず、優しい方だ。何か質問しても、私がわかるまで教えて下さる。姉のいない私と姉妹のいない堂本さん、仲良くさせて頂いている。堂本さんは、現在もお仕事をしっかりされている。おしゃれだし、ほんとにお元気だ。私はとても、とても堂本さんのようにはできない。私のこれから先の夢は、もちろん元気で長生きする事だけど、そんなに仕事も続けたくない。狭くていい。住心地の良いマンションでゆっくり好きな本を読んで過ごすことだ。

おいしいお店に行く友達がいて、いろんなおしゃべりをときおりする。そんな日が欲しい。