KIRACO(きらこ)

Vol158 「醬」むらさき・したじ

2022年12月22日

漢字を楽しむ

醤油なのにサ行のセのところにあるとはこれいかに。油でもないのにしょう油と書くがごとし、と答えたりしたら座布団をみんな持っていかれてしまうかな。

醤は二〇一〇年に改訂された「常用漢字表」には載ってない。しかし633字の「人名用漢字」には入っている。醬の爿は調理台の象形。酉は酒・こうじの意味。細かく刻んだ肉を塩と麹に混ぜた料理、ひしおの意味を表すという。また料理の味を引き立てる意味から、ひしおの意味を表すという。醬は一般に醤と書かれてもいる。醤は醬の簡易慣用字体、いわゆる俗字である。

醤油は小麦と大豆を原料とする麹に塩水を加え、発酵・熟成させて作ったもろみから搾り取った液体調味料。別名、むらさき(色が似ているから)、したじ(味付けの下地になることから)ともいう。わが家におばたちが一緒に遊びに来ることがあった。農家の伯母は「下地を取ってくれ」と言うし、小粋な母の従姉妹は「チョイト、その紫を取っておくれな」と言う。少年の私には紫・当たり鉢(すり鉢)・ありの実(梨の実)などとこともなげに言うお梅小母さんがまばゆく見えた。

これも子どものころ、ムラの協同組合のような組織で醤油を造っていた。当番表が回ってくると、翌日は誰もいない大きな醸造所へ出かけていって、決められた醤油混ぜを丹念に行い、その後で回覧板を次の人に回す。そのころの私にできるいっぱしの仕事でもあった。

醤油の文字が初めて現れるようになり、やがて関東で濃口、関西で淡うすく口ち の醤油が多く造られるようになった。江戸時代にはオランダ貿易によってインドや東南アジアに輸出され、一部はヨーロッパへも送られ、宮廷料理用にまでなった。

市販の醤油には昆布の切れ端や鰹節を入れると旨みのある自家特製醤油ができる。