KIRACO(きらこ)

vol160 東京湾から令和を見る(23)

2023年3月30日

湊町暮らし

「求めるのは安全安心だ」

近頃益々世の中が複雑化して来た様に感じる。時代遅れに成る自分自身の思いか。加齢に因る宿命なのか。早い話が時代の波に乗れないということだ。AIの活用、デジタル化のスピードに付いていけない為なのか。そこで自身の対策は出来事をよりシンプルに考えることにしている。

生まれてこの方海と関わる生活をして来た。父は口癖に「人は陸に住むものだ」であるから海を生活の場に選んだ人間は常に海の偉大さ畏れを胆に銘じ、想定されるあらゆる事に準備をする事「仕事するなら(手)回ししろ」一に二にも手抜かりの無い様にと。沖に出ない時は陸の仕事で閑が無かった。昔は木船で漁網は木綿、ロープはマニラ麻やヤシの繊維、これらは有機質で腐敗する。これを防ぐ為に風時化で晴天の日には網を広場に広げ乾燥し、柿渋の溶液を大きな平鍋で煮立て、その中に網を潜らせて、殺菌とコーティングを、再び乾燥し腐敗を防いだ。木船は雨に濡れると「あおさ」が生え船上を歩くと滑り危険だ。又木の船体が朽ちる事に、そこで塩分を含む海水で丹念にブラッシング、今は船体はグラスファイバー、網はナイロンで、この様な手間は不要となった。皮肉な事に稚魚の揺籃の場を埋め立て石油コンビナートが出来た結果だ。仕事に対し出来る限りの努力は漁が好きだから寝ても覚めても考える日々が続く事も有る、それが苦に成らない。しかし漁業は許認可が必要な仕事なので厳しい法律の範囲の中で試行錯誤し歯痒さを感じる。規制抜きで考えると、海で生活する基本は安全と安心だ。小さな船より大きい船の方がと思う。しかし豪華客船「タイタニック」も沈没した。近々に海上保安庁の2千トン級の巡視船が浅海域で推進機を大破、大きいだけが良い訳ではない。でも大平丸の網船は5トン未満の許可船だ。一発の大波で撃沈の恐れあり、乗組の5~6名が海に放り出される。あらゆる船舶が輻湊し交通量の多い東京湾で乗組員の安全が心配だ。船は沈むもの、飛行機は落ちるもの、原発は事故るものと考えその対策こそが大切だ。

去年知床観光船「カズワン号」遭難が有った。船長の経験が浅かった為に想定外の事が重なった。それはエンジン故障、突風に依る波浪と浸水で船が沈没、許認可通り救命胴衣を身に付けた乗客全員が絶命又は行方不明。水温はセ氏4℃だった。酷寒の海で救命胴衣着用で安全と考えてのことか。

タイタニック号の悲劇は不沈船だと思い込み、救命艇の数が大巾に不足だった為脱出時間が充分有ったのに救命胴衣だけで入水し多数の人が絶命した。史実に基づく映画の中でヒロインとディカプリオ演じるヒーローの悲しい別れ、沈没の際彼女がドアの戸板の上に、二人では浮かない、ディカプリオは冷たい水の中、力尽きて水中に沈んで行く。「カズワン号」も救命ボート(カプセル型)が有ったなら全員助かったのに、船の大きさは安全安心の装備を考えて設計されるべきだ。

初めに船の大きさを決めるのは不合理だ。世の中全て行きつく先は安全安心が求められる。

旬の味「寒中は鮗漁だが」

今年の冬は例年より厳しい寒さが続く。冬の風は重く力が有る。時化が続く中で、寒さがやわらぎ暖かく感じる日が必ず2~3日程度続く時が「ねらい目」だ。汐時は大潮で無いことが望ましいが、そううまくはいかない。どんな汐時でも必ず汐止まりが有る。その一瞬間に合わせるのが船頭の腕の見せ所だ。うまくすれば出荷経費、梱包、輸送、セリ等の固定費を抜いた船方の取分が、200万程度の稼ぎが期待出来る。魚はサワラ、黒鯛、真鯛、鱸。サワラはパスタの具にもなる。

鱸は産卵が終えて時期はずれだが鍋にいい。本来ならば鮗(このしろ)漁に専念する頃だが湾に餌が少ないのか育ちが悪く魚体が小さめで価格が安く漁獲対象に成らない。鮗漁の漁場は湾奥だがサワラ、鯛は竹岡沖だ。