KIRACO(きらこ)

vol163 「具」誤字のチャンピオン

2023年9月28日

漢字を楽しむ

なぜかこの字は間違って書かれる場合が多い。ときには商店の看板として拡大された文字が大恥を天下にさらし、ときにはチラシとなって各家庭のポストに舞い降りたりもする。

どんな間違いかといえば横線が一本たりない。農機具であれば大事なボルト一本、家具であれば棚板が一枚、抜けているのと同じである。だから破格の大安売りができるのだろうと勘ぐってみたくもなる。今は、目一ハと書けば具である。旧漢字は目の両側が延びて一についていた。その印象が誤字を生んでいるのかと思う。

具は貝と廾(キョウ、ク)は両手でささげるの意味。貝は古くは(もとは食物を煮るための青銅器で、祭りのときの器とした)の形であるから、具は両手で恭しくささげもって供えられる祭り用の器具、その中に入れるものをそろえ用意することを、備える。全部そろっているを、みな・つぶさという。したがって、具はつぶさにという意味に使うということである。

道具、というと単純で小形のものを連想する。何の変哲もない大工道具などがまず思い浮かぶ。私も日曜大工が好きで、家を増改築したときは大工さんの手元をじっくりと眺めたりしたものだ。

世間一般にはカナヅチやゲンノウの使い方を知らない人が結構多い。カナヅチの釘を叩く面は平らでないといけない。その反対のとがった部分、あそこはコツンと叩いて釘を刺すための窪みをつけるのであって、昔の大工さんは鋭く研いでおいたそうだ。ゲンノウは釘を叩く面と、仕上げ用の釘を締める面とある。釘を叩くには平らな面、その釘を最後に締めるためには、わずかに丸く中高な面が用意されている。

道具にはこのように、何気ないように見えていて、実は先人の知恵と工夫が詰まっている。