KIRACO(きらこ)

vol164「衣」襟元を合わせた形

2023年11月30日

漢字を楽しむ

衣食足りて礼節を知るという。生活にゆとりができて初めて人は礼儀に心を向けることができるようになる、の意味で使われる。基になっているのは中国の古典『管子』。もっともそちらには、衣食足りて栄辱を知る、つまり人は生活が豊かになって、初めて名誉と不名誉をわきまえるようになる、となっている。

敗戦直後のことを思うと、なるほどと思う。街に戦争孤児たちや物乞いがあふれ、人は住むに家なく、食うことで精一杯だった。それから半世紀以上経って、衣食はあり余りあふれ返るほどになった。しかし、礼節を忘れ栄辱を知らない、利己主義のかたまりのような人がいかに多いことか。どこで日本人はボタンを掛け違えてしまったのだろう。しっかりした教育から始めないといけないのではないかと思う。教育は学校に頼るのではない。家庭のしつけから始めないといけない。そのしつけを躾とも、身偏に花あるいは身偏に益とも書く。どれも和製漢字、国字である。

衣替えの時期、なども昔は陰暦四月一日と十月一日に行うしきたりがあった。現在では制服などについて、普通は六月一日と十月一日に行う。時候の変わり目に、季節に合った衣服に着替えることであった。最近のテレビに登場する人の中にはこうした感覚に欠けた人が増えている。もっとも彼らはファッションだ、自己主張だというだろうけれど。

一衣帯水を隔ててなど、一筋の帯のように狭く長い川、川や海を隔てて土地が互いに接近していることのたとえとして一衣帯水という。衣帯は衣に締める帯のことであるから、真ん中で区切らない。五里霧中も道術によって五里四万にわたる深い霧を起こした故事によるもので、五里霧の中の意である。

衣は襟元を合わせた衣の形からできた文字。活字体だと七画のようにも見えるが、第四画はレ、総画数は六、平がなの「え」の字源である。