この字を字なぞにするなら、此の糸はどんないろ?となる。生真面目な先生ほど、学校の授業でクイズなんて、と苦虫をかみつぶしたような顔をなさるが、生徒は結構喜んで取り組むし、覚えてもくれる。おまけに此の、常用漢字外の字までも読めてしまう。サアどちらに軍配を挙げる? と得意顔することでもないけれど。
中国ではという草の根で布を紫に染めた。日本ではムラサキという草の根からとった染料を使った。この草は白い小花を数多くつける、叢咲き(むらさき・群がり咲く)が語源だろう。また古代ローマではプルプラという貝からとった染料で染めた紫色の染物が珍重された、とされるのが白川博士説である。染色するに当たって身近なものを原料として使う、これこそ人類の知恵というもの。
紫の色は高貴な色とされた。紫宮(天子の居所)・紫禁(王宮)・紫極(皇居)・紫宸(天子の御殿)など、宮中の語に用いられる。日本が世界に誇る最古の長編小説『源氏物語』、そこに登場する女性たちは紫と深い関係のある人たちであった。生母の桐壺、義母であり恋人でもあった藤壺、年上の正妻葵の上、主人公光源氏が理想的な女性に育て上げた紫の上。そして作者はいわずと知れた紫式部。
古代中国の春秋時代、斉の桓公が好みの紫の服を着て見せたので、人々が競ってこれを手に入れようとしたため、値段がそれまでの十倍にもなった。今でいう流行色のはしり。孔子は、中間色である紫が正色である朱を圧倒するのがいやだ、正が邪に負かされたと批評した。朱は単色で正しい色、紫は派手ななまめかしい色と考えられていたようである。
そして現代は紫煙(煙草の煙)や紫外線が敬遠される対象となっている。
紫を含む語で特殊な読みは、・。アジサイの葉を彩りがいいからと料理に添えたりするのは危険である。葉や根に青酸配合体という成分が含まれ、食べると中毒、死亡する可能性もある。