KIRACO(きらこ)

Vol167「殺」目で殺すなら、歓迎?

2024年6月6日

漢字を楽しむ

ちょっと物騒な文字が出てきた。といってもマスコミでは連日痛ましい事件が報じられているので、不感症気味かも。

少数の人間を殺すと罪になり、戦争で大量殺戮を行った後で勝利を収めると勲章ものである。正義の戦争と公言したりする。罪のない人を巻き込んで殺し合いをして何で正しいのか、どうもよく分からない。

本屋へ行ってみると、殺すという字が文庫本の棚にいっぱい並んでいる。売れっ子作家のものからアトランダムに拾い出すと、『在原業平殺人事件』、『木曾街道殺意の旅』、『殺人株式会社』、『殺人よ、こんにちは』などなど、これでもほんの一部。山本周五郎にも『ひとごろし』がある。これは藩で一番の臆病者の若侍が、奇想天外な方法で上意討ちを果たす、しかも血は一滴も流さないという話である。

江戸の町人生活を描いた浮世草子の作者井原西鶴は、人殺しの語を使っている。この場合は、人を悩殺するの意から美人の異称である。

殺すは普通人や動物の生命を絶つ、命を奪うことである。不本意ながら人や動物を死なせる場合にも使う。どうしても避けられなかった死に対して無力であったことなどを責めて、孫娘を突然死で殺してしまった、と私事ながら使ったこともあった。感情や生理現象を抑えるとき、意図的に勢いを弱めるときにも使う。息を殺して見つめる、スピードを殺した球を投げるなど。好ましくないものの特性を抑えるとき、山葵(わさび)は魚の臭みを上手に殺すなどいう。流し目で相手を悩殺するのも殺すだし、相撲や野球、囲碁でも殺すという語をよく使う。

殺の旧字は木の右上にヽがあった。左側はいのししなどの象形で、ヽはその耳だった。殳(るまた)は杖のように長い戈(ほこ)。たたりをする動物を戈で殴って殺す形から、ころす・いけにえの意味を表すという。殺の字を使う熟語で、読み方注意の語は殺生(せっしょう)・相殺(そうさい)・殺陣(たて)。

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