KIRACO(きらこ)

Vol.168「壊」壊すの反対語って

2024年7月25日

漢字を楽しむ

こわす・こわれる・やぶれるの壊である。壊滅・壊乱・壊血病・全壊・倒壊・破壊・崩壊などと熟語になる。

壊の旧字は壞、よ~く見ると土偏に衣、その衣を上下に分けてその間に目の字が横たわっており、さらにその下に涙、涙のマークが付く。つまり、衣の中に目から涙が垂れている形で、涙の意味になる。土はもと土地の守護神を祀る神社であるから、何らかの事情があって住む地を去るとき、守護神を祀る社を取り壊す儀礼が行われたのではないか。それで壊にはやぶる・やぶれる・こわす・こわれるの意味があると説く学者もいる。壮大なロマンの一端を感じさせる文字である。

ところが、旧字から見ると今の常用漢字は十四衣のようになって、涙が乾いたものに変形してしまっいる。善しあしは別にして、何とかならなかったのか。冒頭に掲げた壊滅・壊乱を昔は潰滅・潰亂と書いたが、潰は当時の当用漢字になかったため同音の漢字による書き換えとして、昭和三十一年以降、壊が広く使われている。

普段何気なくコワスと使っている言葉を振り返ってみると、意図的に力を加えて物の形を損なうもの、無意識にしてしまうもの、どちらにも使う。取り扱いを間違えたり、使いすぎたりして器械などを損なう・壊してしまうことがある。飲みすぎて体調を害するのも、一万円札を千円札に両替するのも同じ壊すである。

今度は反対語から眺めてみよう。家を壊す、機械を壊す、話を壊すの反対は、家を作る・造る・建てる・築く・拵である。機械は直す、話や二人の仲はまとめる、となる。

戦後、破壊された顔を売りものにした落語家がいた。彼、四代目柳亭痴楽は口上とは反対に、整った顔のため随分苦労したらしい。