KIRACO(きらこ)

Vol142 「織」新石器時代の遺跡から

2020年4月9日

漢字を楽しむ

新石器時代の遺跡から

私の生まれたところは織物の町として有名だ、と思っていた。JRの駅前にもそれをPRする巨大なモニュメントがあった。高校時代の友人に家が織物関係というのが何人もいた。その後故郷のことに話が向くと、織物の町ですとねとよく言われた。

日帰りコースの気軽な旅に出てみると、織物の町を売り物にしているところは多い。少し古い資料になってしまったが、全国に六十余りの織物の町があった。昔は自給自足だったから、各家での織物が盛んだった。私も戦時中から戦後にかけて家にあったので機を織ったことがある。旅先のある資料館で機織の体験学習をしたら、杼の通し方が上手ですねと褒められた。昔とった杵柄というやつだった。

織物の歴史は古く、一般的には新石器時代と考えられている。最も古い出土遺物はエジプトの遺跡からで、紀元前五〇〇〇年のものだそうである。材料は中国やシルクロード周辺の絹、インドや中央アメリカ周辺の木綿、イランやカシミールなどの毛織物といった具合に地域による特性が大いにある。染料に関しての地域性も強く、例えば日本では植物染料が主流であるが、砂漠地帯では鉱石が多く使われ、虫や貝などを使うのは中南米やインドである。

織の字の字源については諸説があって一定していないが、おる・はたおり・おりものの意味で使われる。大昔は音と戈だけで糸がなかった。今の織になったのは秦の始皇帝が文字の統一を図った紀元前三世紀ころできた篆書からという。現代の中国では画数の多い文字は簡体字に改めて使うことになって、織は糸の省略形に只と書く。

日本の小学校では五年生でシキ・お(る)と習う。ショクは中学高校で習う。学年配当を厳格に守ったら、小学生は七夕伝説の織女も正しく読めない。妙な話である。