KIRACO(きらこ)

「耕」耕運機より耕耘機

2025年8月7日

漢字を楽しむ

 耕すと単独で使うのと、耕耘機・耕地面積と熟語として使うのと、どちらが多いだろう。熟語のほうがやや優勢か。

 耕については耒(ライ、手に持って田畑を耕す農具。すき)+井(かた・わくの意)であるから、すきで形を整えて農地を耕すの意味を表すという。この字は小学校五年生で習うことになっている。昔は耒の書き始めはノであったが、今は筆の入り方が逆になって一になってしまった。耕作・耕地・農耕などの言葉と一緒に、たがやすという読みも学習するようだ。

 熟語の耕耘は田畑を耕し雑草を除去するとの意味である。耕耘機と書きたいところだが、耘の字が常用漢字に入っていない。耕うん機と交ぜ書きするのも落ち着かない。そこで新聞などでは耕運機と代用漢字を使うようになったが、これでは元の意味から相当ずれてしまう。耕耘機と書いてルビをふるのがいいと思う。

 先だって映画『北の零年』を見た。行定勲監督、吉永小百合・豊川悦司・渡辺謙出演。明治新政府によって北海道移住を命じられた淡路の稲田家。新しい国作りを夢見てたどり着いたのは荒涼たる北の原野だった。苦難の連続。が、廃藩置県によって夢ははかなくも破れた。定住を決意した家臣小松原は、北の地で育つ稲を求めて札幌へと旅立つ。が半年経っても戻らない。妻の志乃は夫を探しに出かけ、吹雪の中に行き倒れてしまう。五年後、志乃は牧場主になっていた。そこへ思いがけなく夫が帰ってきた、別の使命を帯びて……。

 開拓農民の厳しさはいつの時代、どこの土地でも同じだ。人の手の入らない荒地を肥沃な耕地にするには血のにじむような努力が必要だ。なのに、お上は一片の紙で、名もなく貧しい人々を蹂躙する。映画の舞台の中に、現代に通じるものがあった。

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