Vol136 十五の春

十五の春

卒業式のシーズンが近づくと取り出して見たくなる赤い表紙の小さなサイン帳がある。
 今の子どもたちにも、そんな習わしがあるのだろうか。私が中学校卒業のとき、お互いにメッセージを書いて交換していたのだ。その存在を長い間忘れていたが、甥が一人暮らす田舎の家へ姪が遊びに行ったときに「物置にあったのを救出してきてくれたから」と弟が送ってくれていた。

「少年よ 大志を抱け」
「健康と幸せを祈る」
 そんなメッセージが多いのだが、他人を押しのけることも知らずボーッと生きている背の高い私だったから
「大きな身体から出る愛情で社会の人に尽くしてください」
と書いてくれた子もいる。
「まるで千年の未来があるように のっしりのっしり あの牛は歩いている」で始まる詩『あの牛』を引用して
「あなたものろい牛のごとく、自分の進むべき人生をじっくり考え、ペースを乱さず進みたまえ」とT君。
「どこのどんな人でも山へ登るにも下から順序に行かなければいけない—」と書いてくれたのはガキ大将だったK君。
 十五歳の春に彼らがこんなことを考えていたことに驚く。
 十五の私は彼らにどんなメッセージを贈ったのだろう。
(郁)