KIRACO(きらこ)

Vol144「酢」塩分控えめの助っ人

2020年8月13日

漢字を楽しむ

「酢」塩分控えめの助っ人

学校を卒えて就職した先が千葉県の利根川沿いの町だった。歓迎会で上機嫌の先輩からテストを受けた。醤油の産地は?野田と銚子!味醂は?流山!さすがだね、よく知ってるねえ。すは?サア困った、にわか勉強をしたつもりが、酢は想定外だった。酢?酢は、分かりませんとかぶとを脱いだ。相手は満面に笑みを浮かべてこう言った。すは鎌倉だよ!昔からそう言うじゃないか!

酢入りの食品では鮨。鮓・寿司とも書く。古くは魚介類を自然発酵させたもので、奈良時代からあった。江戸時代になって、今の押し鮨や箱寿司のような早寿司になった。それでも江戸の職人は気が短いから、押してなれるまで屋台で待っていられない。寿司飯とネタをその場で合わせれば似たようなものだからと、握り寿司が生まれた。以上えらい粗雑な寿司の歴史を並べたが、詳しい記録は残っていない。

稲荷寿司は天保の飢餓あたりから始まったらしいが、それから十年ほど経った弘化年間(一八四四〜一八四八)の日記には、江戸で稲荷寿司がはやり、ワサビ醤油で食べたとあり、今のように甘くはなかったらしい。ついでに言えばすし屋にあるガリ、大きな生姜をガリガリと噛んで食べたことからの言い方である。なお、生姜は熱帯アジア原産、中国を経由して三世紀以前に日本へ渡来したらしい。隠れ技としては解毒作用があり、食欲を増進し消化を促進するなどの効能もあるすぐれもの。

さて、まだある酢の利用法。

その一、なるべく塩分を控えたいという人に。酢は塩分を引き立ててくれるから、ちょっと加えるだけで味が濃くなる。ただし入れ過ぎに注意。

その二、畳の雑巾がけをするときはバケツの水におちょこ一杯の酢を加えた水を使う。酢には殺菌・除菌作用があるから、艶出しに効果的でもある。