「黄」美しい黄金の波
秋を彩る鮮やかな黄色の葉は、銀杏紅葉の名で呼ばれる。四月ごろ、淡黄色の短い穂状の雄花と緑色の雌花が咲くが、葉の陰に隠れて目立たない。それにくらべて晩秋になると、葉は見事に黄色く色づく。
金色のちひさき鳥のかたちして銀杏散るなり夕日の岡に 与謝野晶子
かすかなる音もこそすれ見上げゐる枝縫ひて散る銀杏もみぢ葉 谷 鼎
かつて牧野富太郎博士は提案した。全山に銀杏を植えれば、秋には見事に黄変し、名所になるであろうと。しかし、残念ながらこの植物学の泰斗の提言はどこも採用していない。イチョウは東京都の木であるし、山でなくてもどこか広い一角をイチョウで埋め尽くしたら、一大観光地になると思うけれどもね、石原さん。
じつは先年、中国の江南の地を訪れた。高速道路脇が見渡す限りの菜の花。黄色い絨毯が延々と続く、その壮観に圧倒された。それでも近年は菜の花が少なくなったそうで。経済的に採算が取れない、が理由の第一と聞いた。
日本の菜の花の最盛期、といってもいつの時代かとなると、江戸時代。夜の照明は行灯であり、ナタネ油が使われた。必然的に菜の花栽培が盛んだった。
菜の花や月は東に日は西に 蕪村
は格別有名で、その当時(安永三年)の風景を油絵で見るような句である。
黄色い花の連想で、福寿草、蝋梅、連翹、菊、向日葵……と思いつくままに並べ立てることが私にもできる。同時にみな絵画の好材料にもなっている。
しかし、それにもまして黄金色の懐かしい風景は、たわわに実る稲田である。優良品種の育成と機械利用によって、稲の生産性は一段と高められてきている。