中国でいうところの五味(酸・すっぱい、苦・にがい、甘・あまい、辛・からい、鹹・しおからい、の五種の味)に加えて、日本人の繊細さが生み出した味に旨みがある、と梅干先生として著名な樋口清之博士は説かれた。
梅干や味噌、タクワンのような漬物も、食塩によってそれぞれの栄養分が保存され、保存した組織によって、食塩もまた保存される。鰹節は、鰹の身を煮て何回もいぶし乾かす作業を繰り返した後、黴かび付けをして日に干したもの。このとき菌糸が中まで入り込んで全体を同じように凝固させる。菌糸が発酵を促すから、旨みが一杯になる。塩辛またしかり、と外に幾らでも発酵食品を並べてみれば、祖先たちの頭のよさが納得できる。博士は「日本の農民がいかに利口であるかという例は幾らでもある。ビニールハウスの促成栽培にしても、農協が少し指導すると、たちまち日本全国に広まってしまって、とうとう年中、青い野菜を食べられるようにしてしまった。こういう例を、外国では聞いたことがない」と書きつづられた。
テレビで、作りたての料理を味見した感想を、「冷たくて、おいしい」と繰り返す人がいた。料理人に失礼な話だ。料理は盛り付けや彩りを見、匂いをかぎ、口に入れて歯ざわりや味、のど越しなどを感じて総合的に判断するものだろう。
父とある店に入った。「ウーム、旨い!」という父の声に、
「でしょう。当店自慢の一品ですから」
主人は満足げに店の奥へ消えた。やがて父は独り言をつぶやいた。
「汗だくになって働いて、木陰で一服入れたときの冷たい水のほうが、俺にはずっと旨いなあ」
働き者の父ならではの言葉だった。
うまいには旨い、美味い、甘いなどを当てる。旨の字源も匕(さじ)ですくって口に入れる、その外にも旨く説明したのがある。