編み物と織物とどう違う?唐突に質問されて戸惑ったことがある。編むもの、編み笠、編み上げ靴、お下げ髪、セーター、竹籠、ムシロなどと連想してみて、どうやら見当がついた。
糸や竹、髪の毛などの細長いものを、結び合わせたり絡み合わせたりして、一つの形に作り上げる、それが編むである。織物はたて糸とよこ糸を組み合わせて機で織ったもので、織るはたて糸とよこ糸を交差させて布を作る、である。
編は文字を書いた細長い竹の札、竹簡を順番に綴じてゆくことをいう。竹簡や木簡を古くはなめし革の紐でつづった。編集・編纂は一定の方針のもとに書籍・新聞・雑誌などを作ること。編成は一定の組織あるものにまとめ上げること。短編は小説や映画などで短い作品をいう。
「着てはもらえぬセーターを涙こらえて編んでます」。テレビから懐メロが流れている。私はまるっきり逆の立場だった。
転勤が決まり任地を離れるとなったとき、お下げ髪(だったかどうか定かでない)の少女が、毛糸のベストを記念にと持ってきてくれた。聞けば初めて編み上げたものだという。そのスカイブルーのベストのおかげで、その後十数年も寒さから身を守り、風邪をひくこともほとんどなかった。長い間には補修も繰り返したが、最後は処分せざるを得なくなった。トモちゃん、ありがとう、私はそっと袋に収めた……。こんなエッセー風のものを書いたことがある。
最近はブームが去ったのか、あまり見かけなくなったが、混んだ電車内で、座席に座ったとたん編み棒を取り出し、せっせと編み物を始めるご婦人を見かけたものだ。電車は急停止することもある。前に立っている人が急にその編み棒の上に倒れ込むかもしれない。寸暇を惜しむのも程度問題である。