KIRACO(きらこ)

お名前は?

2025年1月2日

独断独語独り言

ランボーでマッチョな役柄のアメリカの俳優がイタリア系2世と聞いて、当然のように「誕生日は大晦日ね」と思った。何しろバチカンの位置する国。名前は「聖人の日」に由来するだろうと思ったのだが、真夏の生まれだった。

ローマ・カトリックでは12月31日を教皇シルウェステルI世にちなみシルベスターと呼ぶ。ローマ帝国で婚姻を禁じられた若い兵士に同情したヴァレンティウスが恋人たちを秘密裏に婚姻させた罪で斬首されたその日は今、愛の日。信仰の厚かった時代、人々の間では名の日の方が重要視された。義父は一人息子の誕生日には無頓着だったが、聖名の日には必ず祝辞を送ってきた。夫の名は洗礼者ヨハネによる。この日はドイツでは大変重要な日。「アスパラガスの収穫最終日」なのだ。環境保全のスローガンもものともせず、地球の隅々から空輸し入手できないものはない、というこの時代。季節感が無くなった今でも珍しく厳格に時季と地産地消を守るのが唯一このアスパラガスだ。ドイツ産の新鮮な白アスパラを食したいなら4月の半ばから6月24日までに御来独ください。

おっと脱線。閑話休題。

年末になると「聖名の日カレンダー」が折込広告で配布される。私にはまだ珍しいので楽しみにしている。新聞には小さなコラムでその日の聖人のごく簡単な生涯や徳行が掲載される。中には首を傾げるものも。過保護に育って何をしても中途半端、何事も成し遂げられず放浪状態であちこちで匙を投げられ、挙げ句の果て金持ちのパパがそれなりの地位をお金で買ってくれて…のどこに「聖なる徳業」があるんだ? でもまぁ、ニートだろうがなんだろうが生きてりゃいいこともある、という見本と希望の灯り、聖火なのかも。

実際は誕生日と名の日が一致する方が少ない。畏敬するあるいは好きな聖人の名にあやかってもいい。名前そのものが好きでもいい。一世代前は家族の中で使い回しているような気さえするほど名前の種類は少なかった。親子、兄弟姉妹同名もいる。そこはミドルネームや愛称で呼び分ける。初めて夫の母のフルネームを聞いたとき思わず心の中で「ひょえぇぇ」というやや不躾な反応をしてしまった。「マリア・テレジア・ヴィクトリア」って、帝国の繁栄を誇った女帝と女王大集合じゃない。そこにドイツ出身のロシアの女帝カタリーナが入ったら天下無敵だ、と妄想暴走。なんのことはない、叔母、洗礼の代母の名前を並べるとそうなったと。ちなみに祖母はエリーザベト。

姓の方も興味深い。補習校の講師時代、父がアイスランド人という生徒がいた。母は日本人。姉弟の担任をしたのだが、二人の姓に大いに好奇心を刺激された。これは北欧系でよく見られる父称ですか?と尋ねるとお母さんが笑いながら説明してくれた。アイスランドでは父親の名前に息子ならソン、娘ならドティアをつけるんです。父がトムならば子はトムスソンとトムスドティアになり、母称もありです。だからうちの表札は日本名も入れ4つ姓が並び、郵便屋さんが面食らうんです…と。

父称はゲルマン民族に特に多い。少しずつ言葉は変わっても、そういえば

アンデルセン、ジョンソン、メンデルスゾーンと耳に馴染んだ姓は皆同様の由来。ロシアではイワンの息子はイワノビッチ、娘はイワノーブナ。丁寧に語尾は男性名詞女性名詞で異なる。またこれは接頭辞になるがスコットランド系のMac、マクドナルドはドナルドの子。アイルランド系の もオニールはニールの子。

今回のパリ五輪。一番感慨深かったのは日本人選手のお名前。…読めない。子のつく名前はすでに絶滅危惧種になったようだった。