久しぶりに友人から電話があった。
「ねえ、聞いて。私の歯のないはなし」
「えっ、なにそれ?」
以下、彼女の歯のない話し——。
子供の頃から虫歯が多かったのよ、私。
母は教師だったので、ひいばあちゃんに育てられた。父は私が3歳のときに亡くなっていたので、ひとりっ子のひ孫をひいばあちゃんは、かわいい、かわいい、かわいそう、かわいそうとべったり育ててくれた。お菓子のかわりに砂糖(ザラメ)をなめさせた。ザラメはおいしいのよ。
そんなわけで——かどうか分からないけれど、みごとに虫歯だらけ。子供のときはもちろん、おとなになっても歯は悩みのタネ。十数回、引越ししたけど、どこへ行っても歯医者さんと仲良しに。そしてついに上下とも入れ歯に。
話はここからなのよ。
入れ歯はコップに入れて洗面台に置くのだけれど、すぐまた入れるからとティッシュペーパーに包んでベッドのわきに。さて、はめようと思ったが見当たらない。あっ、さっきティッシュにくるんだものを捨てたけど、あれだったんだ!と気がついたがもう遅い。なんてこった。
歯医者さんに行っておずおずと「実は…」といきさつを話すと歯科衛生士さんは少しも慌てず、「ティッシュに包むとそうなるんですよ」と新しい入れ歯をつくる準備にとりかかってくれた。よくあることらしいわネ。
(郁)