メイド・イン・ジャパンの文字なのだが、本場中国へも輸出され、あちらでも一時使われた。日本製の漢字を国字という。国字は訓読みが中心だが、この字は変わっていて、はたらくという訓の外に、ドウという音も持っている。小学校六年間に習う漢字は千六文字あるが、その中に国字が入り込んでいるのも珍しい。
この字は作り方からいうと形声文字である。人+音符の動。人が動く、農耕に従事する、はたらくの意味を表す。明治以後の欧米の翻訳後に使ったものであろうといわれる。『中華大辞典』にも、「働は日本の字。吾が国人通じてこれを読むこと動のごとし」とあるそうで。稼働・実働・自働・労働などの語を作る。反対の働○となる語はと考えてみたが、そういうのはドウもなさそうである。
国字は広い意味で漢字の一種であり、もともと中国にない物の名や概念を漢字で書き表そうとして作られたもので、そうした純日本的なものは柾・榊などの草木、鰯・鱈などの魚類に関するものが多い。木目も真っ直ぐ通った木でマサキ・神前に捧げる木のサカキ、死にやすい弱い魚でイワシ・冬にとれて身が白く皮に斑点がある魚のタラ、このように国字の多くは会意文字で、俤・峠・笹・躾・辻・畑などお馴染みの文字を初めとして、一般に使われる数は百五十程度か。
世の中に寝るほど楽はなきものを浮世の馬鹿は起きて働く
これはあくせくと働く庶民の暮らしを自嘲的に詠んだ狂歌だが、読者の皆さんは恐らく、「起きて働く果報者」の部類だろう。働くとは傍を楽にするものだ、と横町のご隠居さんが知ったかぶりして八つぁんや熊さんにこじつけ話をするけれども、それはそれで実感がこもっている。王朝文学の『源氏物語』には働くという語は見当たらない。
学生運動や組合活動の看板などで、働の略字として仂を使うが、これは誤り。仂はれっきとした別の漢字で、辞書には「人+力音ロク。数のあまり、つとめる(務=力)」など記す。
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