「花」五世紀ごろの象形文字
誰でも花は好きだ。あの花は嫌いという人がいても、全部が全部花が嫌いという人はまず、いない。
ありがたいことに、日本列島は地形的にも気候的にも恵まれていて、花の種類は数え切れないほど多い。
そういう環境に育ち、花好きときているから、花の名前も自然と覚える。外国へ行ったある人が感激のあまり花の名前を並べ立てたら、植物学者に間違えられたという話を読んだことがある。
名もない花と言ったら、それは知らないだけでしょうと言われたという話もある。雑草にも名前はある。
一つの花にいくつもの名前があるのもあるし、地方によって呼び方の違うものもある。
中には人前で口にするのも憚られるような気の毒な花もある。
彼岸花は名前の多い花の代表格だろうか。別名の曼殊沙華とは梵語で赤い花の意味という。
幽霊花とか死人花とか、不吉な別名もある。子どもの遊びから名づけられたのが提灯花。堤やあぜ道、藪の中や墓地などに原色の真っ赤な色で咲いていることからの連想だろうか。地下の輪茎は利尿効果があるらしい。
墓場や土手に多いのは土葬された死体を損なわれたり、ネズミに土手を荒らされたりするのを防ぐためか、と湯浅浩史氏は説く。含有する有毒成分もよく水にさらせば消えるから、飢餓対策の最後の砦説を素人の私は採りたいのだが。
花のもとの字は華、花びらが美しく咲き乱れている象形の文字。花は五世紀ごろ作られた形声文字という。日本人の花好きは国字にも表れている。米に花でコウジは知られている。他にも、
土に花でゴミ(青森県には埖渡・ゴミワタリという地名があるとか)、㊛に花でダテ、扌に花でナグサメル、木に花でモミジまたはカバ、石に花でカキ(牡蠣)、身に花でシツケ(躾)、金に花でニエ(刀の刃に現れる雲形の模様)、魚に花でホッケ。