KIRACO(きらこ)

Vol156 「辛」入れ墨用の針

2022年8月18日

漢字を楽しむ

この字は中国で最も古いとされている甲骨文字(亀の甲や獣の骨に彫られている文字)を見ると、取っ手のついた大きな針の形、罪人に入れ墨をするための針の象徴だった。刑罰として入れ墨をするときの痛みが辛、つらい、きびしい意味となり、その意味を味覚の上に移して、からいとなった。ホップ、ステップ、ジャンプと三段跳びをしたような感じがするけれど、漢字にはこうした使われ方をする字がかなり多い。

辛は漢和辞典ではそのまま独立した辛部を作っている。辛辣(非常に手厳しいさま)・無辜(罪がない)・辟易(勢いに押されて尻込みをすること)・辞職(つとめをやめる)の辛・辜・辟・辞の四字はみな辛部に収まっている。その他普段ほとんど使われていない文字を総動員しても、辛部の漢字は五十字ほどの世帯である。

同じからいでも、ピリッとからいは辛い、しおからいは鹹い、と昔は使い分けた。今は鹹の字が常用漢字に入っていないので、塩辛いと書くことで我慢できるとしても、熟語になっているものを、かん水湖・かん水魚と交ぜ書きされると、一瞬何のことだか分からなくなる。ルビを付けて鹹水としたほうがずっと分かりやすい。こうした交ぜ書きの語を拾い集めてみると、嘘ではなくて八百にもなるとか。こうした珍妙な日本語に警鐘を鳴らす本『「完璧」はなぜ「完
ぺき」と書くのか』(田部井文雄著)が出版されている。

日本中が塩分控えめの大合唱である。確かに塩分の摂り過ぎはよくない。香辛料を使うといい、酢を使って塩分を減らそう、など料理本をのぞいてみるとさまざまな知恵と工夫が並んでいる。しかし、欧米人の食事からのみ数値を割り出すのはいかがなものか。牛肉の中にはすでに塩分が入っている、それ以外の塩分摂取量の比較は無意味という人もいる。