KIRACO(きらこ)

vol164 ピアノ

2023年12月21日

編集室から

「私、こんどピアノ始めるんです」
生協の配達員のおにいさんがうれしそうに言った。

「えっ、教室に通うの?」
「奥さんが幼稚園の先生なので教えてもらうんです」
ああ、それはいいねえ。
それにしても「おにいさん」と思っていたのに「女房持ち」とは─。

そして皆さんお気づきでしょうか。
この頃の若者は自分の妻のことをひとに話すとき「奥さん」と言うのです。
ひと昔前の男はそんなとき「女房」「家内」「連れあい」「嫁」などと言ったものでした。
どの世代からこんなふうに変わったのでしょうか。そしてそれはどうして…。〝知りたがり屋〟のきらこは世のお父さんたちに聞いてまわりたいほどです。

ところで私にとってピアノは弾けたらどんなに楽しいだろうと思われる楽器なのです。70歳、80歳になって始めるという人もいるのですが、そんな根性もなく──。
──実は私の母は中学校の音楽の教師でした。定年になってから自宅でピアノ教室を開いていました。

帰省したとき「私にもピアノ教えてくれればよかったのに」と言うと、「あの頃、家にはピアノがなかったからねえ」と母。

「あなたは世界的なピアニストをひとり、埋もれさせてしまったのよ」と私が言うと生真面目で冗談の通じない母は「そうだよねぇ」とため息をつくのでした。(郁)