以前に牛のところにも書いたが、羊もまた正面から見て、角と上半身を写した形が漢字のも
とになっている。羊も牛も神に供えるいけにえとして使われた。もとは牛のそれを犠といったから、今でも犠牲の二字には牛偏が使われている。
羊の肉はおいしいものとされた。「羊頭狗肉」という言葉がある。羊の肉を看板用につるしておいて、実際に売っているのは粗悪な犬の肉。見せかけや宣伝は立派で、実質が伴わないことのたとえとして使われる。もとの言葉は、羊頭を懸けて狗肉を売る。輸入肉なのに高級国産とごまかしラベルを貼られないよう注意しよう。
「箱根の山は天下の険、函谷関も物ならず、……昼猶暗き杉の並木、羊腸の小径は苔滑らか……」
ご存じ『箱根八里』の一節。羊腸の小径とは細くくねくねとした長い小道のこと。実際の羊の腸は、体長の約二十倍に達するとか。古代殷の時代から羊を食用にしてきた人々は、くねくねと長いものといえば真っ先に羊の腸を思い浮かべただろう。なお、この歌詞は、文部省の発案で「中学唱歌」を作ることになり、鳥居忱に作詞を依頼、作曲を一般公募した作品。曲を付けるのを尻込みする先輩たちの中で、学生の滝廉太郎が見事に曲を付け、皆に舌を巻かせたというエピソードも残っている。
羊の部に入る漢字は、ひつじの類、その状態に関するもの。羊の上を使う文字は、縦の画の末が横一画より下に出ない。大きくて立派な羊から、うまい・うつくしいの美。羊とノコギリのような刃物の我で、いけにえの羊に刃を当てる際の厳粛な作法にかなった行い・義。むらがる羊の意味から群。みやげ物の羊羹の羹は羔(こひつじ)の下に美(うまい)で、あつもの。などがお馴染みの字である。
ひつじとは、ヒは「ひげ」、ツは「の」、ジは「うし」の意という。とあるのは『広辞苑』で、編者の新村出博士の説であり、他にも語言説は数多くある。
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