ことしの冬は寒い。「10年に一度の大寒波」などといわれると「ひえーっ」と縮みあがる。北国や日本海側の豪雪の様子もテレビ画面から伝わってくる。
でも、温暖な千葉では、この冬、一ひらの雪さえ舞わない。
雪国秋田で育った私は、この季節になると「真冬でも布団を干せる幸せ、ぬくぬくの布団に包まれて眠る幸せ。雪国の人に申し訳ない」と思ってしまうのだ。
と言いつつも、冬はやっぱり雪が見たい。
茜浜へ行ってみると、小さく見える富士山のてっぺんはまっ白。きれい。
そうだ、私は富士山が大好きだったのだ。
十代の頃「いつか、富士山の見えるところに住みたい」と思っていた。外へ出ると「ぬっ」と富士山がそびえていて、その表情は日によって異なり、千変万化…。「ああ、きょうもきれいねえ」とつぶやく。しかし、そういう暮らしに縁はなく、片想いのまま月日は過ぎて。
下りの東海道新幹線は進行方向左側の窓際を選ぶ。
富士山が見えてくると「わっ」と窓にへばり着く。一瞬たりとも見逃したくない。なのに視線を送ろうともしないまわりの乗客たち。あー、もったいない…。
飛行機はそばを飛ぶとき、翼を少し傾けて大接近してくれる。これだけで、旅の楽しさが、旅の思い出が増す。
そういえば、しばらく旅に出ていないし、富士山も見ていない。
明日晴れたら、茜浜へ行ってみようかな。
(郁)