KIRACO(きらこ)

 最近の物価上昇のすごさ!

 長年生き抜いてきた私達老人にしてみれば、あの終戦直後の経済にも匹敵するくらいのすさまじさを感じずにはいられません。

 お米の急騰にも驚いていますが私が最初に怒りを覚えたのは《郵便料金》の値上げでした。

 今までは値上げといっても幅もそうまで大きくなく、しかもそれに関するお知らせなども事前に公表されていたのに、今回はまるで《当たり前》みたいなやりくち…だったような気がしてならないのです。

 今の私たちはもはや普段のショッピングでもオンラインが当たり前。

 《送料》の上昇がこの先、物価に大きく影響していくことは明らかです。

 仕事上、どうしても郵送に頼らなくてはならない人たち、この先もアタマを抱えたくなるのでは?

 そう、我らが「KIRACO」だってそうですよね!

 と、そんなこと考えながら7/8月号の原稿を仕上げるべくPCに向かっていたら、遠くから《ピイ~プゥ~》長閑な音が…

 「そうか、今日は水曜日。お豆腐屋さんの来る日だ…」

 急いで玄関の棚に置いてある買い物メモを手に外へ出ました。

 まさに時代を逆行する感じ。《アナログ派》もいいところです。

 その日メモっておいたのは…
 「お刺身湯葉」「ふっくら厚揚げ」「煮豆《金時豆》」「にがり木綿豆腐」「ソミート生姜焼き」その他モロモロ…

 もちろんラッパの「ピィープゥー」は本物ではなく、録音された《昔ながらの売り歩きのお豆腐屋》を真似た音なのですが、私にしてみれば懐かしい遠い昔…の再現なのです。
 
 結婚してすぐに住んだ世田谷・松原のアパートで毎朝聴いていた、《印半纏》の若衆の吹くラッパのそれと、あまりにもソックリなので、思わず引き込まれてしまうのです。

 広島から上京して、馴れない都会生活に日々緊張していたその頃の私。

 毎朝お豆腐屋のラッパが聞こえるとアパートの若奥さんたち、手に手に小さな鍋を持って出てくる。それで私もオズオズと…。

 「はいよ。次の奥さんもヤッコでいいかい?」

 威勢のいいアンちゃんの声。その手にはほぼ長方形をした豆腐切りの分厚い包丁が…

 《え?ヤッコ?》

 一瞬、目パチクリ、の私でしたけど、なんせ新参者、黙ってコックリ頷くだけです。

 さてここで読者の皆様に問題です。

 《ヤッコに切る…って一体どんな形状?なのか、お分かりでしょうか?》

 答えは敢えて書かないことにしておきましょう。こんなこと考えるのも脳トレのウチですから。

 それにしても週に一度とはいえ、私にとってはこの巡回販売、本当に助かっています。

 スーパーまで行ってそれぞれの売り場にたどり着くまで、このヨタヨタ歩きのおばあちゃん、どんなに《エライこっちゃ!》なのか…想像してみて下さい!

 ましてや出かけて転び、大ごとになるなんてこともあり得るワケですから。

 でも、何たって決め手はお味そのもの。

 この巡回販売のお豆腐、もうビックリするくらい《昔のお味》で美味しいのですよ。

 他の物…例えば《厚揚げ》なんかも、ただフライパンで焼いて生姜醤油を潜らせれば、それでもう立派な一品。

 殊に家族に人気なのが《湯葉》です。あの京都南禅寺のそれにも劣らないシコシコ&モッチリ感がたまりません。(その代わり、出来立てのままなので、見栄えはあまりよくはありませんが)

 軽くチンして、一枚一枚破かないよう丁寧に剥がし、お刺身の要領でお皿に並べ、ワサビ醤油を潜らせて食べます。残った湯葉は小さく切って、出汁のきいたお澄まし汁に落とします。

 この時、目を瞑ってお椀の蓋を取ると、湯葉独特のいい香りがツンと鼻にきて、私にしてみればそこはもうイッパシの京都の料亭。

 と、それぞれを私流にとことん楽しみながら食べています。

 確かにお値段は少しかかります。

 でも、最近の腹立たしい値上げ攻勢を思うと、もはや問題ではありません。

 「お取り寄せ」もよく利用しますが、その殆どは冷凍保存の効くものばかり。たまに一人での夕食だったりすると、《何食べようかな?》考えるだけでお腹がクゥーと鳴るのです。

 終戦後、日々飢えていた中学生時代。八十年も昔のことなのに、食べたいものをパクつく歓びはその頃とちっとも変っていない!

 これって最高の幸せですよね。

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