KIRACO(きらこ)

Vol157「酸」初恋の思い出の味

2022年9月15日

漢字を楽しむ

酸っぱいものといえば、梅干。夏みかん。初恋の思い出。子どもにいう小言……。あるところで、出し抜けの問いかけにこんな答えが返ってきた。子どもじゃなくて夫よ、という声が上がると、妻かもしれないわよと、とまぜっ返しがあって大笑いになった。

酸、酸味は食物の五種の味、五味の一つである。す。すっぱい味の調味料。「酸は酢ナリ」と昔の辞書にもはっきりと記されている。酸寒(たいへん貧乏なこと)・酸切(身を切るほどに痛ましいこと)というような使い方がある。味覚のほかにも、はなはだしく程度を超えて苦しい状態をいい、苦しい・つらい・貧しいの意味にも酸は使われている。同じ五味の中でも、甘(あまい)、辛(からい)、苦(にがい)などが、その意味を人の感情の上に移して、甘受・甘美、辛苦・辛辣、苦学・苦戦と使われるのと同じように。

少々お堅い話になってしまった。では少し、四角四面でも軟らかいお話を——。

暑気払いに一杯やろうと集まったのはいいが、肴まで手が回らない素寒貧な連中。昨夜の豆腐に気がついたが、暑気のために腐ってカビまで生えている。そこへ通りかかったのが表通りのキザな若旦那。この若旦那を招じ入れ、これを食わせてしまおうと一同たくらんだ。若旦那は食通だのなんだのと乗せられ、腐った豆腐を食べてしまう。
「これ、なんて食べ物です?」
「これは、酢豆腐だな」
「若旦那、たんとおやんなさい」
「いや、酢豆腐は一口に限る」

難しい読みのクイズに必ずといってもいいほど出される問題がある。その常連は、酸漿。鬼灯とも書く。読みはホオズキ。七月九、十日の両日、東京浅草寺の境内で開かれる鬼灯市は大勢の人出でにぎわう。最近は果実の種子を取り出すのが不得手だったり、果実の皮を口に含んで鳴らせない人が増えているという。一つの庶民文化なのに。