KIRACO(きらこ)

Vol143 東京湾から令和を見る(7) 「驕る平家は久しからず」

2020年5月12日

湊町暮らし

東京湾から令和を見る(7) 「驕る平家は久しからず」

昭和から令和、東京湾の姿が激変した。これを押し測って世界に想いを馳せれば気候変動等の現象から地球の変化は人間が及ぼして来た影響が甚大であることが確信出来る。これを裏づけるかのように、「ナショナルジオグラフィック」日本版、傷つけられた地球、守られてきた地球、と題して2020 年4月号が発刊された。人類は地球を好き勝手に破壊して来た。

漁業は自然環境をベースに成り立っている。一方人間社会は今人口の増加と合わせて計画的に食糧供給を考えている。

こうした矢先に、新型コロナウイルスがどこからか出現し世界中に猛威を振るっている。誰かが言った。「遂にパンドラの箱を開けた」と。人間の驕りが地球の自然環境を悪化させ、静かにねていたウイルスを目覚めさせたというのだ。

人間の欲望を叶える為に限りなく広大な森林を伐採し、原野や山肌を掘削し農園や鉱山そして炭鉱に。沿岸域を陸地化し石油コンビナート、造船所や、発電所に。海岸、河川のコンクリート化、直立化、直線化、そして生活排水や工業廃水、農業廃水、放射能、マイクロプラスチック等の汚染。限りなく自然を傷つけ利用し、自然の脅威を克服しながら近代化を進めて来た。地球上で人間に侵食されていない場所を探すのが困難な程だ。これに因り、地球資源が枯渇傾向に、一方人口は増え続けている。その為食糧を維持するのに陸にあってはタンパク質の培養、海では養殖と科学技術を駆使し新技術の研究開発に余念がない。

これらは自然界を超越して出来る限り品質にこだわり、ブランド化し高値にして利益を上げようと行われている。

こうした傾向は観光資源も同じでいかに質を高めて高価な物にするか考え研究して来た。客に供する魚に於いては見映えと味を高めるために色や香りまでも餌を選ぶことで実現し地域ブランドと並々ならぬ努力を積み重ねている。こうして特別に差別化を計ることが商売の優等生に専門家といわれる学者も学問も、そして産業界も行政も称賛し推進して来た。

こうした真只中に新型コロナウイルス禍が突如として巻き起こった。感染の恐怖と防止策で人々の移動と物流が停止した。世界は一つとグローバリズムを謳歌し、全てが一方向に突き進んでいた。この時誰も予期せぬ急ブレーキが掛かり経済活動がストップした。株価が暴落した。船が動かない、飛行機が飛ばない、そして原油が暴落。ウイルスに依る感染は急激に世界中に拡散し、地球の自転が止まったかのような劇的な悪影響を生み、人々の生活を麻痺させ、日常の経済活動も行動範囲が極端に制限され、毎日の食生活は住居に近いコンビニやスーパーが支えた。人が接近し密集するレストラン、食堂、料理屋、旅館、ホテル、居酒屋、回転寿し等々の飲食が制限され客足が遠のき、高級食材の動きが完全に止まった。魚価が低迷し缶詰や冷凍物、即席ラーメン等の簡単に食せるものが売れ、包丁を使う骨のある魚は敬遠された。こんな情況は想定外だった。

 2020 年の1月までは水産庁の進めるTPPへの準備に操業の機動力や生産者も販売を考えた経営の多角化やブランド化等産品をいかに高価格で流通させるか、その為に冷凍冷蔵、加工技術、加工機材等々最新の設備投資が不可欠、即ちより資本が必要、これを継続維持するには漁獲、市場の安定が必要。が漁業は真に自然界が相手。漁獲収入は魚の種類と量によって極端に変わり予測通りにならないのが常だ。それ故不漁のことを基準に計画するのが経営の安定につながる。即ち漁獲から経費を差し引いてプラスに成れば良しとする仕事で、生産量は自然まかせだ。故に経費をいかに軽減するか。安全操業に欠かせない漁船漁具の整備費、船員の給料、燃油、高度な漁獲能力の維持、人は陸に住む動物であり海上の生活は訓練と経験が不可欠。船上では限られた準備しか出来ない。機関故障や船体の破損も想定しておく。荒天運用には操船技術、天候情報を収集し荒天を避け、平時に荒天を想い海に畏敬の念を忘れない。

旬の味「ボラとスズキ」

コロナ騒ぎで鮮魚の流通が鈍い。今船橋漁港ではビノス貝、スズキ、ボラ、コノシロ等が水揚げされている。ビノス貝は活貝で主に居酒屋へ、スズキ・ボラは活魚で東京、名古屋市場へ。特に活魚の流通が悪い。ホテルや割烹、レストランで重宝されるが、開店休業の店が多いため苦戦している。四月はスズキよりボラが美味だ。刺身、洗いで食す。身肉は真白で、血合は透き通る様な鮮やかな明るい赤だ。
ボラは魚類図鑑等に泥臭いとよく書かれているが無臭だ。
スズキの旬は夏だ。春先には身肉は白濁で、透き通っていない。また産卵の後で体力を消耗しているので痩せている。ボリュームに欠ける。頭から腹部を真二つに切り裂き、エラ、ワタを除き塩を打ち、吊るして干す。2日3日後、三枚におろし、食べやすい大きさにして直ぐに使わなければ冷蔵または冷凍しておくと何日でも使える。急な来客に都合がよい。直火で焼くか薄味に煮てもよい。塩胡椒してフライパンでオイル焼も美味だ。