夫のトリセツ
『妻のトリセツ』(講談社+α新書)が売れているという。
男と女では脳の機能に差があるということらしい。
そりゃ、あるでしょ。男女にかかわらず個体差もあることだろうし。それにしても『夫のトリセツ』ってないのかしら。
「『トリセツ』って取り扱い説明書のことでしょう」
と友人が言う。
50年も一緒にいる夫の取り扱い方、熟知している。今さら他人様に教えてもらうことではない。
「でもね」と彼女。「なんでそうなのか、分からないこともいくつかあるのよ」。
世界を股にかけ、家族の行事より仕事優先とつっ走ってきた現役時代の夫。妻はそれを支え、誇らしくさえ思っていた。
ああ、それなのに。
定年になったとたんに家にとじこもり、ぼうっと過ごしている。スポーツ観戦や旅行が好きな人だから出かければいいのに、朝からテレビ。「水戸黄門」「暴れん坊将軍」「大岡越前」。懲らしめてやりなさい―、成敗!―、これにて一件落着。そういう台詞にスカッとしているらしい。
「上から目線の言葉でしょ。私たちにそんな感覚ないよね」
女たちは口々に言う。
「やっぱり『夫のトリセツ』必要かしらね」
(郁)